アール・ブリュットとはART-BRUT
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アール・ブリュット(Art Brut)という言葉の生みの親、フランスの画家ジャン・デュビュッフェ

 

アール・ブリュット(Art Brut)とはフランス語で「生(き)の芸術」という意味だ。
既存の美術教育の手あかが付いていない芸術作品を指す。フランスの画家ジャン・デュビュッフェ(Jean Dubuffet 1901-1985)が発案した言葉とされている。「加工されていない芸術」「伝統や流行などに左右されず、作者自身の内側から湧き上がる衝動のままに表現した芸術」など、さまざまな言葉で定義されている。
作者は、精神病院の中にいる精神障害者、知的な障害をもった人々、ひきこもりや隠遁生活など社会から隔絶されたところで生活している人、受刑者などが含まれる。英語では「アウトサイダー・アート」と呼ばれることもある。

 

沈黙・孤独・秘密の要素を孕んでおり、独学で創作活動をしていることなどがその特徴とされる。ただ、作者の病状や生活の変化によって作風が変わり、アール・ブリュット作品を創作していた人がそうではなくなることもままある。ノルウェーの画家ムンクは、統合失調症の症状が重いときに「叫び」という日本でも有名な作品を描いたが、病状が回復するにつれて芸術性の高い作品を描かなくなったと言われている。

 

デュビュッフェはアール・ブリュット作品の収集家でもあり、スイス・ローザンヌにその収蔵館がある。デュビュッフェ自身は「アール・ブリュットと呼ぶのは私が収集したものだけにするように」との遺言を残したと言われる。日本でも諸外国でも「アール・ブリュット」という定義について異議が唱えられることがあり、呼称や定義については諸説あって確立されたものとは言えない状況だ。
一方、「アール・ブリュットと呼ばれる作品はもともと曖昧なものであり、さまざまな作品を幅広く包含できるという点では“アール・ブリュット”という言葉・定義が適している」(青柳正規・前文化庁長官)という説に賛同する関係者も多い。

 

ヨーロッパでは精神病院を改造した美術館にアール・ブリュット作品が収蔵・展示されているのがよく見られる。精神医療でアート・セラピーが取り入れられてきた歴史を背景に、統合失調症などの精神障害者の作品が主流となる傾向があるためだ。